【国語】平家物語②

今回も引き続き、『平家物語』について解説します。
2つの記事に分けてご紹介しています。前編はこちらです。
後編では、「那須与一」「弓流し」を解説していきます。

詳しくみていきましょう!

目次

1.那須与一(前半)

では早速、「那須与一」を見ていきましょう。
まずは、状況の確認です!

状況とあらすじ

1185年に起きた屋島の戦い(香川県)での出来事を描いています。
源氏と平氏が川を隔てて、向き合っている場面です。
源氏は陸に、平家は川の上に船でいます。
題名にあるように源氏の武士である、那須与一が登場します。
彼は弓を持っています。そして、平家の船の先の竿には、扇の的があります。
このような状況下でのお話です。

では次に、あらすじを確認しましょう。
平家から、船の先にある扇の的を射る挑戦を受けることになった那須与一。

与一は自分の故郷である、栃木の神様に成功を祈った。

すると、少し弓が打ちやすくなった。

これが前半のシーンです。
では本文を見ていきましょう。

歴史的仮名遣い

頃は、二月十八日の
とりこくばかりのことなるに、
をりふし北風激しくて、
磯打つ波も、高かりけり。
舟は、揺り上げ揺りすゑ漂へば
扇も、串に定まらずひらめいたり。

沖には平家、
舟を一面に並べて見物す。
陸には源氏、
くつばみを並べてこれを見る。
いづれもいづれも晴れならず。
と、いふことぞなき。

与一、目をふさいで、
「南無八幡大菩薩、
我が国の神明、日光の権現、
宇都宮、那須の湯泉大明神、
願はくは、あの扇の真ん中、
射させてたばせたまへ。

これを射損ずるものならば、
弓、切り折り自害して、
人に二度、面を向かふべからず。
いま一度、
本国へ迎へんとおぼしめさば、
この矢、はづさせたまふな。」

と、心のうちに祈念して、
目を見開いたれば、
風も少し吹き弱り、
扇も射よげにぞ
なつたりける。

現代仮名遣い

頃は、二月十八日の
とりこくばかりのことなるに、
おりふし北風激しくて、
磯打つ波も、高かりけり。
舟は、揺り上げ揺りすえ漂えば、
扇も串に定まらずひらめいたり。

沖には平家、
舟を一面に並べて見物す。
陸には源氏、
くつばみを並べてこれを見る。
いずれもいずれも晴れならず。
と、いうことぞなき。

与一、目をふさいで、
「南無八幡大菩薩、
我が国の神明、日光の権現、
宇都宮、那須の湯泉大明神、
願わくは、あの扇の真ん中、
射させてたばせたまえ

これを射損ずるものならば、
弓、切り折り自害して、
人に二度、面を向こうべからず。
いま一度、
本国へ迎えんとおぼしめさば、
この矢、はずさせたもうな。」

と、心のうちに祈念して、
目を見開いたれば、
風も少し吹き弱り、
扇も射よげにぞ
なったりける。

現代語訳

時は、二月十八日の
午後六時くらいのことであった、
ちょうど北風が激しくて、
海の波打ち際に打つ波も、高かった。
船は、上に揺れ、下に揺れ、漂って、
扇も、竿に止まらず動いている。

沖には平家が、
船を辺り一面に並べて見物している。
陸には源氏が、
馬のくつわを並べてこれを見ている。
どちらもどちらも晴れ晴れしない
ということはない。

与一は、目を閉じて、
南無八幡大菩薩、
私の故郷の神様、日光の仏様、
宇都宮、那須の湯泉神社の神様、
どうか、あの扇の真ん中を、
射させてくださいませ。

これを失敗してしまったら、
弓を切っておって自殺して、
人に再び、顔を合わせることはない。
いま一度、
(私を帰して)故郷に迎えようとお思いになるならば、
この矢を、外させないでください。」

と心の中で祈念して、
目を見開くと、
風も少し吹き弱まり、
扇も射やすくなった。

この場面での重要点

♦「酉の刻」って? 古典の時刻の表し方

酉の刻は、午後六時の事です。
古典では、十二支を使って、時刻や方角を表現します。

子(ね)から、順番に24時間を分割していきます。
干支は12あるので、1つ当たり2時間です。
その干支の文字を使って、〇の刻といいます。
子の刻は0時、丑の刻は午前2時、寅の刻は午前4時、卯の刻は午前6時…のような要領です。

♦平家物語の特徴!「対句の表現」

舟は、揺り上げ揺りすゑ漂へば、
扇も、串に定まらずひらめいたり。

という部分ですが、平家物語が弾き語りだからこそのリズムの良さがありますよね。
「舟」と「扇」、「揺れて動いている」と「止まらないで動いている」がそれぞれ対応しています。
これを「対になっている」「対」「対句」と言います!

他にも登場します!

沖には平家、舟を一面に並べて見物す。
陸には源氏、くつばみを並べてこれを見る。

これも対になっていますね!

2.那須与一(後半)

では、後半も続けてみていきましょう。
前半では、与一が弓を放つまでの流れを確認しましたよね。
いよいよ弓を放つ場面です。

歴史的仮名遣い

与一、かぶらを取つてつがひ、
よつぴいてひやうど放つ。
小兵こひょうといふ ぢやう、
十二束三伏そくみつぶせ、弓は強し、
うら響くほど長鳴りして、

あやまたず、扇の要際、一寸ばかりおいて、
ひいふつとぞ射切つたる。
鏑は海へ入りければ、
扇は空へぞ上がりける。

しばしは虚空にひらめきけるが、
春風に、一もみ二もみもまれて、
海へさつとぞ散つたりける。

夕日の輝いたるに、
みな紅の扇の日出だしたるが
白波の上に漂ひ、
浮きぬ沈みぬ揺られければ、

沖には平家、
船端をたたいて感じたり、
陸には源氏、
えびらをたたいてどよめきけり。

現代仮名遣い

与一、かぶらを取ってつがい、
よっぴいてひょうど放つ。
小兵こひょうという じょう、
十二束三伏そくみつぶせ、弓は強し、
うら響くほど長鳴りして、

あやまたず、扇の要際、一寸ばかりおいて、
ひいふっとぞ射切つたる。
鏑は海へ入りければ、
扇は空へぞ上がりける。

しばしは虚空にひらめきけるが、
春風に、一もみ二もみもまれて、
海へさっと散ったりける。

夕日の輝いたるに、
みな紅の扇の日出だしたるが
白波の上に漂い
浮きぬ沈みぬ揺られければ、

沖には平家、
船端をたたいて感じたり、
陸には源氏、
えびらをたたいてどよめきけり。

現代語訳

与一は、かぶら矢を取ってつがえて、
十分に引っ張って、ヒョウッと放った。
与一は小さい小兵とは言いながら、
(矢は)十二束と三伏の長さで、弓は強く、
(放った矢は)浦に響くほど、長く鳴って、

間違うことなく、
扇の真ん中の、三センチくらい離れた所を、
ひいふっと切り離した。
かぶら矢は海に落ち、
扇は空へ舞い上がった。

扇は、しばらくの間、空にひらひらと舞っていたが、
春風に、一もみ二もみもまれて、
海へサッと散り落ちた。

夕日が輝いているところに、
真っ赤な扇で、太陽が描いてあるのが、
白い波の上に漂って、
浮いたり沈んだり揺れているのを見て、

 沖には平家が、
船端をたたいて感動し、
陸には源氏が、
えびらをたたいてどよめいた。
(えびら:弓矢が入っている入れ物のこと)

この場面での重要点

♦平家物語の特徴!「対句の表現」

鏑は海へ入りければ、
扇は空へぞ上がりける。

 後半にも対句の表現が多用されていますよ!
これも対になっていますね!

みな紅
白波

これも実は対句なのです。
紅白の色を示しており、色が対になっています。

沖には平家、船端をたたいて感じたり、
陸には源氏、えびらをたたいてどよめきけり。

こちらも主語や動詞などが、すべて対になっています。

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3.弓流し(前半)

先ほどの場面と続いている部分です。
与一が見事に扇を射ましたが、その後どうなるのでしょうか?
早速、あらすじから見ていきましょう!

状況とあらすじ

扇を射た後も、与一は登場人物です。
「源氏と平家どちらの人物が、どのように行動しているか」に注意しながら、あらすじを確認しましょう!

那須与一は平家の船にある扇の的を見事に射ることに成功した。

源氏も平家も盛り上がる中、平家方から男が一人出てきて、船の上で踊り始めた。

与一に命令が出て、与一はこの男を射て殺す。

 これが前半のシーンです。
では本文を見ていきましょう。

歴史的仮名遣い

あまりのおもしろさに、
感に堪へざるにやとおぼしくて、
船のうちより、年五十ばかりなる男の、
黒革をどしの鎧着て、
白柄しらえの長刀持つたるが、
扇立てたりける所に立つて
舞ひしめたり。

伊勢三郎義盛、
与一が後ろへ歩ませ寄つて、
御定ごじょうぞ、つかまつれ。」
と、言ひければ、
今度は、中差なかざし取つて、
うちくはせ、よつぴいて、
しやくびの骨を、
ひやうふつと射て、
舟底へ逆さまに射倒す。

平家の方には音もせず、
源氏の方にはまた、
箙をたたいてどよめきけり。

「あ、射たり。」
と言ふ人もあり、また、
情けなし。」
と言ふ者もあり。

現代仮名遣い

あまりのおもしろさに、
感に堪えざるにやとおぼしくて、
船のうちより、年五十ばかりなる男の、
黒革おどしの鎧着て、
白柄しらえの長刀持ったるが、
扇立てたりける所に立って
舞いしめたり。

伊勢三郎義盛、
与一が後ろへ歩ませ寄って
御定ごじょうぞ、つかまつれ。」
と、言いければ、
今度は、中差なかざし取って、
うちくわせよっぴいて、
しやくびの骨を、
ひょうふっと射て、
舟底へ逆さまに射倒す。

平家の方には音もせず、
源氏の方にはまた、
箙をたたいてどよめきけり。

「あ、射たり。」
言う人もあり、また、
「情けなし。」
言う者もあり。

現代語訳

あまりのおもしろさに、
感動をがまんできなかったと思われて、
船の中から、年が五十くらいの男で、
黒革おどしの鎧を着て、
白柄のなぎなたを持った平家の男
扇の立ててあった所に立って
舞を踊った。

 伊勢三郎義盛が、
与一の背後に(馬を)歩ませてきて、
(義経の)ご命令である、射よ!」
と言ったので、
与一は今度は、中差を取り出して、
弓につがえて、十分に引っ張って、
男の首の骨を、
ヒョウフッと射て、
船底へ逆さまに倒した。

平家方は静まり返っていて、
源氏方は、今度も
箙をたたいてどよめいた。

「あぁ、よく射た。」
と言う人もいた、また、
風流じゃないな。」
と言う人もいた。

この場面での重要語句

  • 御定→ご命令
  • 情け→風流

♦平家物語の特徴!「対句の表現」

平家の方には音もせず、
源氏の方にはまた、箙をたたいてどよめきけり。
平家方と源氏方の静けさと騒ぎ方を対比的に表現しています。 

「あ、射たり。」と言ふ人もあり、また、
「情けなし。」と言ふ者もあり。
与一の行動に対して、二極化した意見をもっている人々がいることを描いています。
褒めて称える者と、風流がないと批判する者がおり、対比で表現しています。

4.弓流し(後半)

次の場面の主人公は、源義経です。
いったい彼は何をしたのでしょうか?
「弓流し」という題名に沿う内容ですよ。

状況とあらすじ

源義経の行動とその意図に注目しましょう!

源義経は、海での戦いの中で、弓を落としてしまう。

周りが止めるのも聞かず、拾おうとする。

その理由を聞いて、周りは感心した。

 これが後半のシーンです。
では本文を見ていきましょう。

歴史的仮名遣い

うつぶして鞭を持つて
かき寄せて、
取らう取らうどし給へば、
兵ども「ただ捨てさせ給へ。」
と申しけれども、
つひに取つて、
笑うてぞ帰られける。

大人ども、
つまはじきをして、
「口惜しき御事候ふかな、
たとひ千疋万疋にかへさせ給ふべき御だらしなりとも、
いかでか御命にかへさせ給ふべき。」
と、申せば、

判官ほうがん
「弓が惜しさに、取らばこそ。
義経が弓といはば、
二人しても張り、
もしは三人しても張り、
叔父の為朝が弓のやうならば、
わざとも落として取らすべし。

王弱たる弓を敵の取り持つて、
『これこそ、源氏の大将、九朗義経が弓よ。』とて、
嘲弄せんずるが口惜しければ、
命にかへて取るぞかし。」
と宣へば、
みな人これを感じける。

現代仮名遣い

うつぶして鞭を持って
かき寄せて、
取ろう取ろうどし給えば、
兵ども「ただ捨てさせ給え。」
と申しけれども、
ついに取って
笑うてぞ帰られける。

大人ども、
つまはじきをして、
「口惜しき御事候うかな、
たとい千疋万疋にかえさせ給うべき御だらしなりとも、
いかでか御命にかえさせ給うべき。」
と、申せば、

判官、
「弓が惜しさに、取らばこそ。
義経が弓といわば、
二人しても張り、
もしは三人しても張り、
叔父の為朝が弓のようならば、
わざとも落として取らすべし。

王弱たる弓を敵の取り持って、
『これこそ、源氏の大将、九朗義経が弓よ。』とて、
嘲弄せんずるが口惜しければ、
命にかえて取るぞかし。」
宣えば
みな人これを感じける。

現代語訳

義経うつ伏せになって、
鞭でかき寄せて、
弓を取ろう取ろうとしなさると、
武者たちは「弓をただお捨てください。」
 と申し上げたけれど、
とうとうすべて拾って、
笑ってお戻りになった。

老臣たちは、
つまはじきをして、
「がっかりすることをしますねえ、
たとえ千疋万疋の値段になる高価な弓であろうとも、
どうして命にかえられるでしょうか。」
と申し上げると、

義経、
「弓が惜しくて、取ったのではない。
義経(私)の弓が、
二人がかりで(弦を)張る、
もしくは三人がかりで(弦を)張る、
叔父の源為朝の弓のようであるならば、
わざとでも落として、敵に取らせる。」

(けれども)弱々しい弓を敵が拾って、
『こんなものが、源氏の大将の、九朗義経の弓だとよ。』と言って、
馬鹿にされ笑われるのが、悔しいので、
命に代えても、拾ったのだよ。」
とおっしゃれば、
みんなこれを聞いて感動した。

この場面での重要語句

  • 口惜し→悔しい

♦義経が命がけで弓を拾った理由

義経の弓が弱々しいのを、敵に嘲笑されるのが嫌だったから。

自分の弓は、叔父の為朝に比べて弱々しく、そんな弓を敵に拾われて、馬鹿にされて笑われるのが悔しいと思い、命がけで弓を拾いました。このような義経の行動に対して、聞いていた人は感動しました。

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5.係り結び(復習)

徒然草を勉強した際に紹介した「係り結び」をもう一度復習しましょう。
『平家物語』の中で出てくるものを例に確認しましょう!

係り結びって?(再掲載)

係り結びとは、文の途中の「係助詞」に合わせて、文の終わりの単語が、特別な形になることです。
これによって、文の意味が強調されたり、疑問の意味を持たせたりすることができます。

具体的な「係助詞」と「文末の単語の形」を見ていきましょう。

係助詞なむこそ
文末の単語の形 連体形連体形連体形連体形已然形

難しく感じるかもしれませんが、簡単に言うと、
「ぞ・なむ・や・か・こそ」が出てくると文末の単語の形が変わるということです。

係り結びの例(平家物語の例)

具体的に係り結びになっている文章表現の例を見ていきましょう。

例① 那須与一(前半)

  • いづれもいづれも晴れならずといふことなき

係助詞「ぞ」に合わせて、文末の形が変化しているのが分かります。
ここでは、「なし」という終止形ではなく、「なき」という連体形になっています。

例② 弓流し(前半)

  • あまりのおもしろさに感に堪へざるにとおぼしくて、
    (那須与一が見事扇を射ぬき、感動した平家方の男が踊りだす前のシーン。)

この文章には、係助詞「や」がありますが、係って活用されている単語がありません。
これは、「係り結びが流れている」と言います。  

 例③ 弓流し(後半)

  • 「…いかで御命にかへさせ給ふべき。」
    (家臣たちが、義経の行動を注意するところ。)

係助詞「か」に合わせて、文末の形が変化しているのが分かります。
ここでは、「べし」という終止形ではなく、「べき」という連体形になっています。 
これは反語の意味があります。
つまり、「~だろうか。いや、ちがう。」と訳します。
ここでは、「命に代えるべきではない」という思いを伝えようとしています。

このように、平家物語のなかにもたくさんの係り結びが出てきました。
注意しながら現代語訳や本文を読んでいきましょう!

『平家物語』は理解できましたか?
主語が省略されている部分や、現代では理解できない文化・価値観が多いのが難しい点です。
作品の特徴や重要古文単語などとともに、しっかりと覚えましょう!

この記事を書いた人
趣味:サイクリング

学習アドバイザー 後藤

家庭教師のやる気アシストで、学習アドバイザーとして年間600人以上のお子さんの勉強のお悩みを解決!たくさんのお悩みを解決してきた学習アドバイザーの目線から、勉強に関する様々なことを記事にしています。
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