【国語】漢詩①
美しい景色を目にして思わず心が動かされる
久しぶりに帰ってきた故郷の姿を見て、懐かしい気持ちになる。
何かを見たり聞いたりしたときに心が動かされることを感動といいます。
昔の人々は感動の気持ちを文章に残してきました。
感動の気持ちを一定の形式にのっとって表現した文章のことを詩といいます。
この記事ではそのなかでも漢詩を扱っていきます
昔の人がどのような気持ちでいたのか
漢文の基礎知識を確認しておきたいなという方はこちらの記事で復習しましょう。
漢詩とは
漢詩ってなんだろう?
漢詩とは、名の通り漢字で書かれた詩のことです。
漢字は中国で発明された文字ですので、本来漢詩とは中国でつくられた詩のことを指します。
それがやがて日本に伝わり、日本人もふるくから親しむようになりました。
昔の日本では、漢詩を読んだり、書けたりすることが教養の一つとされており、日本でも漢詩が作られるようになります。
漢詩を読むことは宮廷にいる貴族をはじめとした政治を行っていた人々の条件の一つでもある重要な能力でした。
漢詩を読むポイント
実際の作品を読む前に、漢詩読解の基礎知識である読み方と形式を確認しましょう。
①読み方
漢詩は中国語で書かれた詩ですので、日本語と文法が違います。
したがって、漢詩を読むときには適切な日本語の語順に読み替えなければなりません。
そこで日本語として読みやすい語順を読み替えるための目印の働きをしてくれるのが返り点です。
頻出の返り点はレ点と一二点です。
- レ点 … 返り点の一つ下の文字から一つ上の文字に戻って読む
- 一二点 … 先に一点のついている文字まで読んだ後、二点のついた文字に戻って読む
②形式
漢詩は形式が決まっているため、その形式にしたがって分類することができます
分類のポイントは、文字数と詩の長さです。
漢文は詩の長さに応じて絶句と律詩のどちらかに分類できます。
- 絶句 … 四句で構成されている
- 律詩 … 八句で構成されている
また、文字数が5文字のことを五言、7文字のことを七言と言い、「五言絶句」や「七言律詩」のように分類します。
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漢詩を読んでみよう① ~「春暁」~
「春暁」について
ではここから実際の漢詩を読んでみましょう。
まずは孟浩然という詩人が書いた「春暁」という作品です。
【形式】
五文字の句が四つあるので、形式は五言絶句です。
【読み方】
一句目は「不」と「覚」,「覚」と「暁」の間にそれぞれレ点がついています。レ点がついている場合、点の下の漢字→上の漢字の順番で読むので、暁 → 覚 → 不となります。「不」はひらがなに直せるので、「暁を覚えず」と読めます。
二句目は「聞」の下に二点、「啼鳥」の下に一点がついています。この時は、二点のついた「聞」を飛ばし、一点のついた「啼鳥」を読んでから、「聞」に戻りるので、啼鳥 → 聞の順になります。したがって、「啼鳥を聞く」と読めます。
【読み】
春眠暁を覚えず
処処啼鳥を聞く
夜来風雨の声
花落つること知りぬ多少ぞ
【意味】
春の眠りは夜明けに気づかないものだ
あちらこちらで鳥のさえずり、鳴いているのを聞く
夜以降、風と雨の音がしていたので
たくさん花が落ちたのだろうな
内容を確認しよう
そもそもタイトルの「春暁」とはいったいどんな意味でしょうか?
暁とは「夜が明けてだんだんと明るくなってきた時間」のことです。つまり春の夜明けごろのことです。
では各句の内容を確認してみましょう。
一句 ここで使われている「覚えず」とは、現代語とは意味が違っていて、気が付かないという意味になります。
つまり、春はぐっすり眠ってしまい、夜が明けていることに気が付かないということです。
二句 「処」という漢字はところと読むので、「処処」はところどころ、あちらこちらでという意味です。「啼鳥」とは鳥の名前ではなく、鳥が鳴いているという状況です。つまり、あちこちで鳥のさえずりが聞こえるなあといったイメージです。
三句 夜来風雨の声の「声」とは音という意味です。
四句 たくさん花が落ちたのだろうなという意味です。三句目と四句目をつなげて読むと、夜からずっと風や雨の音がしていた → だからたくさん花びらが落ちたのだろうな、という関係性が見えてきます。
表現を確認しよう
漢詩読解で押さえなくてはならないのが表現技法です。
なぜなら洗練された漢詩であるほど、表現技法が巧みに凝らされている場合が多いからです。
「春暁」の詩の中には押韻という表現技法が使われています。
押韻とは、句末の文字の母音を合わせる表現技法です。
この詩では、二句目の句末の「鳥(チョウ)」と四句目の句末の「少(ショウ)」が押韻しています。
ローマ字読みすると「TYOU」と「SYOU」ですので、確かに「YOU」部分が共通していることが分かりますね。
五言絶句の場合、二句目と四句目
五言律詩の場合、二句目、四句目、六句目、八句目
七言絶句の場合、一句目、二句目、四句目
七言律詩の場合、一句目、二句目、四句目、六句目、八句目
がそれぞれ押韻します。
つまり、基本的に偶数句の句末の漢字が押韻します。
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漢詩を読んでみよう② ~「絶句」~
「絶句」について
続いて読んでいくのは、杜甫という詩人の書いた「絶句」という作品です。
「絶句」というのは漢詩の形式名なので、本来題名に使われることはありませんが、この作品は題名が不明なので、
詩の形式が作品名になっています。
【形式】
こちらも五文字の句が四つあるので、五言絶句です。
【読み方】
二句目の「欲」と「然」の間にレ点がついているので、ここは戻ってよみます。したがって、「然えんと欲す」と読みます。
【読み】
江碧にして鳥愈白く
山青くして花然えんと欲す
今春看又過ぐ
何れの日か是れ帰年ならん
【意味】
長江は緑色で、鳥はますます白く見える
山は青々と木が生え、花は燃えだしそう
今年の春もみるみるうちにまた過ぎて
いつになったら、帰れる日がくるのだろうか
内容を確認しよう
絶句は四句で構成されるているため、それぞれの句が、起→承→転→結の役割を担っています。
一句 「江」とは川のことです。中国で「江」といえば、最大級の長さを誇る長江のことです。長江の水面が緑なので、そこに浮かぶ鳥はいっそう白く見えるわけです。
二句 「花然えんと欲す」は「花がいまにも燃えようとしている」という意味になります。これは比喩表現ですので、「まるで燃えだすかのように真っ赤に咲いている」というイメージです。
三句 「看」はみすみすと読み、みるみるうちにという意味です。今年の春もるもるうちにまた過ぎていくという筆者の気持ちが表れています。
四句 直訳すると「いつの日が自分の帰る日になるのだろうか」という意味で、「いつになったら帰れる日がくるのだろうか」という筆者の気持ちが表れています。
表現を確認しよう
「絶句」には押韻の他に対句という表現技法が使われています。
対句とは、二つの句の構成を似せたり、語句の種類を対比させる技法です。
この詩では一句目と二句目が対句になっています。
江と山 ともに自然を表しています。
青と碧 ともに色を表す漢字で、碧はみどりを表しています。
鳥と花 ともに生き物の名前を表す漢字です。
白と然 ともに色を表しており、白と然(赤)を表します。
それぞれ対比されていることが分かりますね。
【押韻】
この詩は五言絶句ですので、二句目の最後と四句目の最後がそれぞれ押韻します。
二句目の末の漢字は「然」、四句目の末の漢字は「年」でそれぞれ音読みで「ネン」と読むので、韻を踏んでいることが分かります。